2008年01月29日

蒲田のワル(5)

 N氏はケロリン桶に水を入れた。
 それを肩越しに勢いよくかけた。
「うえっ!!」
 となりのオヤジがかかったしぶきの冷たさで、絶叫をあげた。
 ざまあみろ。
 ヤツは歪んだ顔でこっちを見ている。

「あ、すいません!」
 N氏は何気ない顔であやまり、洗い場を出て、
 さっさと更衣室に向かったのである。

 フフフ、大成功!
 だが、着替えながら、良心の声が聞こえた。
(もし、万が一、あの人が犯人じゃなかったら……)
 いや、そんなはずはない。絶対犯人だ。あのオヤジは、
 たしかにあとから入ってきたじゃないか。ほかにはだれもいないはず。
(でも、犯人は前から入っていた客かも)
 いや、あの場所を移動した人はほとんどいないはず。
(それはたしかだろうか?)

 でも、あのオヤジは目つきが悪いし。
(目つきが悪い人なんて、いっぱいいるじゃないか)
 だけど、あれだけ空いてる所があるのに、わざわざオレのとなりに
 来るなんてやっぱりおかしい。やっぱり犯人だ。
(でも犯人じゃなかったら……)

 犯人じゃなかったら、ごめんなさい。
 いや、待てよ、実質的には謝ってるんだから、いいんじゃないのか?
(いや、それは万引きと同じことで、
 やってから謝ったって罪は消えないということだ)
 ちっぽけなコソ泥のために、帰りの自転車をこぎながら、
 なんだかとても小さなことで葛藤するN氏。
 そのあいだに大切な日曜日の夕方は、どんどん暮れていくのであった。

                 The End
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先日は世田谷の銭湯に行きましたが、やっぱり椅子を盗まれました。
しかも、同じ日に2度! 蒲田に限らず、やっぱりどこにでもいるんですね~

投稿者 Napori Takao : 07:00