2007年10月25日
第5章 真夜中の冷蔵人間 ~帰途
東京駅から中央線に乗ってから、しまった、と思った。
中央線沿線は昔いた会社の最寄り駅である。
会社をやめてからも、まだ当時の同僚は何人か、残っている。
彼らと顔を合わせたらどうしようか。
電車は朝の通勤時間帯で大混雑している。
汗でドロドロの安物Tシャツは着替えたが、髭面でぐったりした
自分の姿を見たら、彼らはなんと言うだろう。
横に座っている田中からも、日雇いの哀愁と疲労が滲みでている。
顔をあわせたら、なんと言い訳しよう。くたびれたスポーツバッグを
片手に、「ちょっと夜遊びしてきたんだ」では不自然すぎる。
たったひと晩やってみただけなのに、殺伐としたあの倉庫で
奴隷のような口をきかれて過ごしたせいか、考えることまで
卑屈になっている。こんな毎日を過ごしていれば、
あのベテラン連中のようになってしまうのかもしれない。
混雑しているおかげで、前の人間が視界をさえぎってくれて
すわっている私たちが見えにくいのは幸いだった。
どうかだれにも見つからずに新宿まで着いてくれ、と祈った。
電車のなかで、田中の携帯が鳴った。
出ながら、田中は身振りで会社からだと私に伝えた。
「ああ、どうも。今日ですか? いやですよ、昨日のA運送、
きつかったですよ。ほかのところにしてもらえませんか。
せめて人間あつかいされるところで働きたいですから。
とくにあのいばってる、太ったの、あれなんですか?
どうしようもないじゃないですか。口のききかたといい、
態度といい………え? ああ、そうですか。……はい
……いいえ、でも私はあそこはちょっと。ほかのところにして
もらえるんなら考えますから。とにかく今日はだめです、はい、はい」
会社が田中をなだめる雰囲気が伝わってきた。
日雇い1日目終了後08:20-08:50 ~ To be continued
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