2007年10月17日
覚悟の辞表
田中はすべての日雇いを否定するような言い方をしたが、
私は、少なくとも坂田はこの仕事が好きで、
自分の生き場所として楽しんでいるように見えた。
そんな坂田を卑下して見る気分にはなれなかった。
話しているうちに4時をまわり、空がうっすら白味をおびてきた。
待ちわびていた夜明けだ。田中は言った。
「ここなら羽田空港のほうが、まだラクですよ」
「羽田空港の仕事もあるんですか?」
「ええ、バスから荷物を降ろす仕事です。あそこは忙しい
時間帯はあるけど、ひと息つける時間はあるんです。
ここはずっとひっきりなしでしょ。これじゃ腰がもたないよ」
「いっしょにバスに乗ったあの若い人がキツイって
言ってましたけど、ほんとにそうですね」
「ほんとだよ」
田中はタバコをもみ消すと、改まって遠慮がちに聞いてきた。
「なにか、仕事やってるんですか?」
「はい、ライターの仕事をやってます。最近、仕事がうまく
まわらないんで、手っ取り早く金になるのを、と思いまして」
すると、彼は同じ境遇だと思ったほっとした顔になった。
「そうかあ、みんなそうなんだよねえ。短期でいいと思うと、
いいところがなかなかないんですよね」
彼はポツリ、ポツリと自分のことを話しはじめた。
「私ね、歳は42なんです。ゴルフ場の開発とか支配人とか、
かけもちでやってたんです。開発といっても、地上げとかじゃなくて、
コースの設計をどうするかとか、そういうプロジェクトを進める
ほうですけどね。でも景気が悪くなってから、先代の社長が亡くなって、
2代目の息子が継いだんですけど、それからがメチャメチャですよ。
もうテレビドラマに出てくるようなバカ息子で。
景気が悪いからって、私が何年もかけて大事に育てた
人たちの首をどんどん切っていくんです。ちゃんと考えが
あってのことじゃないんです。私のことが気にいらないから
腹いせにやるんです……会社のことはまるでだめなくせに、
女だのなんだの、ほかのバカなことには頭がまわるヤツでね。
それでとうとう頭にきちゃったから、辞表書いてね、
ヤツの机にたたきつけてから、やっちゃったんです、これ」
田中は右フックをふってみせた。
日雇い1日目04:00-04:20 ~ To be continued
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