2007年03月22日
別れの予感(2)
夫は眉間に皺を寄せて言った。
「でもさ、そういうときだって、いいじゃない、
そういうそぶりをするだけでもさあ」
「私とあなたはちがう。
あなたは私を同化させようとしてる」
イライラをこらえながら、夫は言った。
「ちがうよっ、同化じゃないよ……
楽しいことを共有したいだけなんだよ」
「同化だよ……共有、なんてムリだよ」
「…………」
夫は答えがわかっていたかのように、押し黙り、
やがて、静かに口を開く。
「……最近、なんかオレにピリピリしてない?」
「えっ」
「なんか、すごく感じるんだよ、すごく……
オレはあなたにすごく気を使ってるよ」
「私だって、使ってるよ」
静かにおこって言い返す妻。
「たのむよ、オレ56歳なんだからさ」
「…………」
夫の顔が歪む。
「ほんと、たのむよ、56歳なんだよ。オレは」
妻ははりさけるような気持ちをこめて、つぶやいた。
「私だって、たのみたいよ」
ふたたび押し黙ってしまう、ふたり。
息づまる空気をのせて、今、電車は
暗く横たわる、多摩川を越えようとしている。
ふたりはどこへむかうのだろう。
The End
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投稿者 Napori Takao : 10:19